定価割れチケットが流通しまくっていただけに心配だった「Goethe(ゲーテ)!」。宝塚らしくないといった評価もチラホラありましたし。
ところがどっこい、良かったですよ。
なにこれ?ってなほどに「人の業(ごう)」てんこ盛り。
息子に自分の理想を押し付ける父親、反抗する息子、職場での友情、突然の熱愛、禁断の恋、失恋の苦しみで捨てた命、、、登場人物のほぼすべて(例外は後述します)にリアリティがありました。さすが史実ベース。
「ホラ吹き天使」だの「人間とドラキュラの混血」だの決して実在しないキャラ設定でトンチキ芝居に甘んじてきた永久輝せあさんがようやく本来の魅力を発揮出来ました。華やかでありながらどこか辛気臭い役もこなせる方なんですよ。
登場人物で最もリアリティに乏しい存在だったのは侑輝大弥さん演じるケストナー。
星空美咲さん演じるロッテに恋して婚約が成立するんですがロッテは永久輝さん演じるゲーテと超熱愛していてにくたい関係もありました。ケストナーはよりにもよって、自分とロッテの婚約パーティーでそういった事実を知ったんです。
なのに、なのに結婚したんですよ。
おかしいわこんなん。相当にロッテに入れあげている設定ではありますがエリート弁護士なんですから傷物になった女なんてポイするのが普通です。「恥をかかされた」とロッテやゲーテをころしたっておかしくない。
このあたり史実はどうだったんだろうと実際のゲーテをウィキってみたら私の想定通りでした。ゲーテのロッテへの恋は一方通行だったんですよ。出会った時点でロッテはゲーテの友人ケストナーと婚約しており、ロッテはゲーテを袖にしてケストナーと結婚したんです。それでゲーテは住んでいた街を飛び出して自死すら考えるほどに苦しんだわけ。
こういった史実を捻じ曲げてミュージカルにするなら堅物のケストナーが人間らしく苦悩するシーンを入れないと。愛しいロッテはきむすめじゃなかった、よりにもよって相手は自分の部下!それでもロッテが好きだから結婚したい、苦しい・・・みたいな。
こういった苦悩を入れなかった上に若手の侑輝さんが演じたためいよいよケストナーにリアリティがありませんでした。あと侑輝さんはやたらキーの低い歌ばかりで損していましたね。もともとのドイツミュージカルでは本物の男性が演じていたんでしょうから仕方ない?だけど永久輝さんの歌唱はどれもこれもキーが高かったのだし侑輝さんにも配慮して欲しかった。
ケストナーの心理描写がモーレツに不足している一方でゲーテのそれにはやたら尺を取っていました。特にメフィストフェレスの登場シーン。私はあらかじめ

プログラムを読んでいたからわかったけれど、読んでいなければ最後まで「これ誰?」だったでしょう。
それにメフィストフェレスだとわかっても違和感がありすぎる。だってこのミュージカルってば「若きウェルテルの悩み(初版1774年)」が生まれるまでの話でしょ?メフィストフェレスが出てくる「ファウスト」はゲーテ晩年の作品なんですよ(初版は第1部が1808年、第2部はゲーテ死後の翌年1833年)。ウィキのあらすじしか読んでいない私でも若き…よりファウストの方が濃厚なストーリーである事はわかります。にしてもこの度の作品にはホンマにいらない演出だったかと。
あとね・・・
ケストナーだけじゃなく聖乃あすかさん演じるイェルザレムについてももっと深堀りして欲しかった。愛を失う苦しみに耐えきれずこの世を去る、彼こそまさに若き…のメインモデルなのだから。
そう。
若き…の主人公ウェルテルのモデルはゲーテ100%ではありません。ゲーテも自死したくなるほど失恋に苦しんだものの実際に決行したのは友人イェルザレムなんです。
ゲーテは作品でウェルテルを死なせて自分の自死したい気持ちを吹っ切る事が出来たそう。そして1832年に82歳と、令和の日本人男性の平均寿命81歳を超えるほどに長生きし晩年まで恋愛遍歴を積み重ねたんですね。
言ってみればたった25歳でこの世を去った友人をネタにして自分は長寿も名声も得たんですよ。お金だって相当稼いだはず。
イェルザレムの墓は後に聖地として多くの参拝者が巡礼したそうですがイェルザレム本人には何のメリットもありません。もし天国から眺めていたら悲しむんじゃないですか?友人が自分をネタにし小説にしてウハウハになって、自分の墓が聖地という名の見世物になってしまったんですから。
欲深く長生きしたゲーテの勝ち組人生に触れ、
この世は生きている者のためにある。
と改めて感じました。
この記事を書くにあたりイェルザレムの享年を調べてギクッとしたんです。25歳って同じなんですよ。名前は出さなくてもわかりますよね?
もしそれを少しでも意識しているのならこれほどに宝塚らしい作品はありません。


コメント
こんばんは
たーさま、お久しぶりです
ブログは拝読させて頂いてますがコメントはかなりお久しぶりです
ゲーテの観劇は1回だけです。
前評判通りほぼ歌!で今までに無い感覚を受けたので感想を言語化するのは難しいです。
前もってメフィストフェレスが登場する事は知ってましたが、あれは人を破滅に導こうとする概念のような存在なのかなと思ってました。
ググってみたら、確かにゲーテの作品ファウストに登場する悪魔ではありますがゲーテのオリジナルではなく16世紀ドイツのファウスト伝説やそれに材を取った文学作品に登場する悪魔だそうです。
ゲーテを題材にした宝塚の過去作品に彩凪さん、鳳翔さん、大湖さんがメインキャストの「春雷」という作品をスカイステージ で見たことがあります。
若き日のゲーテが彩凪さん、ケストナー鳳翔さん、ロッテ大湖さん。不思議に似た点がありました。(永久輝さんも村人?役と引き金を引くウェルテルの後ろ姿役されてます。)
春雷でも雨の中二人が結ばれたり、オシアンの詩が好きだという共通点がある二人を子供っぽいと言い放ち芸術を理解しないケストナーさん。ゲーテ!でもそんな感じの場面あったし。
主要キャストが繊細なのに不思議な事にケストナーさんはどちらの作品も現実的に描かれてました。
イェルザレムとマルガレーテの恋があまり深く描かれていなくてちょっと消化不良ですがイェルザレムがいなくなったのにまるで何事もなかったかのように無関心な職場の場面がなんともいえず…
あの時の事をちょっと思い出してしまいました。
永久輝さんはあの期の初舞台の時、ロケットボーイされていてあの期とは関わりが深いので(名前も全員覚えているとの事)心中いかほどかと。
私が勝手に想像してるだけですけどね。
はい、たーさまの書かれている通りこの世は生きてる人のためににあるでしょう
「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと、生きる道が見えてくる。」
ゲーテの名言の一つです。
ブログ拝読してネット彷徨ってたらこんなタイトルの本見つけてしまいました
文豪の名言対決
『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決』(草思社文庫)
頭木弘樹 編訳
正月休みにでもちょっと読んでみようか?
多分コメントは今年最後になると思います。
来年もよろしくお願いします。
調和の霊感3の6さん、こんにちは。前回は4月のやり取りでしたね。調和の霊感3の6さんにとって今年は喪中はがきの準備が大変だったと存じます。
はい、ゲーテはマジで歌が多かった。ただ「ミュージカル」ってのはそもそも「セリフが歌になっているお芝居」だと思うので歌が多すぎる!とは思わなかったです私は。
メフィストフェレスははい、破滅の観念を具現化したものかもしれません。にしては華やか過ぎたかな真っ赤な衣装だったし。
ほほー、ゲーテのオリジナルじゃないんですね。ウィキ「ファウスト(伝説)」によると
>古典的に取り扱ったクリストファー・マーロウの戯曲『フォースタス博士』(1604年)により、イングランドで広まった。
そうです。
その200年後にドイツ人のゲーテが再編したんですね。
「春雷」ですかー、ってうわっ!!!なんと原田諒!!!!!2013年だから当時アラサーかぁ。
ガッツリと「若きウェルテルの悩み」が原作になっていますね。ええっと、歌は「ゲーテ!」よりだいぶ少なかったのかな?なんせ主演が彩凪さんですし、、、
大湖さんは男役から娘役に転向したんですよね。それは知っていましたが「春雷」が娘役としてのデビュー作だった事は知りませんでした。鳳翔さんは存じませんでしたが宙組の男役だったんですね。
永久輝さんの「ヤン」も気になりましたが有沙さんの「ミリィ」に注目しました、まだ雪組に配属されたばかりだったのに抜擢されたんだなと。間違いなく当時はトップ娘候補だったのでしょう。
春雷でもゲーテ!でもゲーテは夢見る夢子ちゃんならぬ夢見る夢男くんなのですからライバルのケストナーが超現実的なキャラになるのも納得です。どちらのキャラも令和の日本、ってか世界のどこにでもいそうですよね。私はそうゆうストーリーが好きです。
はい、イェルザレムとマルガレーテの恋がほぼ描かれていないためイェルザレムが死を選ぶ事に私は納得出来ませんでした。こうゆう「史実知ってるやろ?」前提のストーリー展開ってありますね、赤と黒もそうだった。
だけどそれより気になったのは、そう!
>イェルザレムがいなくなったのにまるで何事もなかったかのように無関心な職場の場面がなんともいえず…
あの時の事をちょっと思い出してしまいました。
ここなんです。
あと私はイェルザレムの墓標の前で悲しむ両親のシーンが辛かった。ほんの一瞬だしセリフもなかったけれど忘れられません。
この世は生きている者のためにある。
若い命がなくなっても大きな組織は何事もなかったように振る舞う。
ただただ若者の両親が悲しむだけ。
みたいに感じました私は。
宝塚がそう言いたいのだと。
永久輝さんは103期と関わりが深いんですね。
葛藤は続くでしょう、ゲーテ!は永久輝さんにとって辛い作品であると同時に永久輝さんにとって出世作にもなるでしょうから。
さて、
カフカですかー、名前を聞いた事があるようなないような、、、ただウィキると面白かったです、まずもって眼ヂカラ最強なカフカの写真にビックリしました。
んーーーー、精神的に幼いまま40歳の若さで病死した印象です。31歳で婚約したのに「執筆活動に専念出来なくなっちゃいそう」と怯えて破棄したり、その後婚約者の友達とねんごろになったり、また婚約者と2度目の婚約をしたり、その後病気を理由に再び破棄したり。こんなグダグダ男でも結核から寛解していれば希望に満ちた文体の執筆活動に励んだかもしれませんがそうじゃなかったのですから陰鬱な文体のままでも不思議ではありません。ゲーテとの共通点はいわば父親との軋轢くらい?どう考えても倍以上生きて名を馳せたゲーテの勝利です。
私は「絶望名人」だというカフカよりすでに長生きしていて、40歳だった頃より今の方がだいぶ希望的思考である実感があります。ゲーテが「希望名人」になったのは長生きしたからでしょう、私も彼の享年82歳を超えて長生きしたいです。
多分今年最後のコメントなんですね。
こちらこそ来年もよろしくお願いいたします。
いつも本当にありがとうございます。