錦秋十月大歌舞伎 寺島しのぶメインの感想

歌舞伎・芸舞妓

しのぶ、しの~ぶ、しのぶに会うぞ~、と

ルンルンと向かった歌舞伎座。

錦秋十月大歌舞伎(昼の部)では寺島しのぶさんの登板がとても話題になりました。成人女性が歌舞伎座の舞台に立つのは超レアだそうで、反対する人も少なくなかったとか。
私は寺島さんを超・全力で応援するつもりでした。寺島さんをきっかけに今後もいろんな女性が歌舞伎座公演に登板したら良い、とも思っていたんです。

なのに・・・昼の部が終わるとひたすら

歌舞伎は男だけがええな。
寺島しのぶがアカンというんじゃなく、歌舞伎は男だけでやる事に意味があるんや。

と思っていました。
寺島さんがどうにも悪目立ちしていたんです。

さすが尾上菊五郎さんの娘だけあって滑舌は抜群だし、やはりとっても声が良い。国立劇場で聴いた(菊五郎さんの息子で寺島さんの弟な)菊之助さんの声もすごく良かった(感想はこちら)ですから遺伝なんでしょうね。
演技力だってホンマに抜群でした。

だけどだけど、
やっぱり「女性」だったんです。
寺島さんの「声」、そして「首」が女性ゆえに、とても目立っていました。

歌舞伎の女形にはキーが高く色っぽい声を出す方がたくさんいます。
相当の努力あってこその声でしょう。生まれ持った素質(声帯)も重要でしょう。
私は男性女性関わらずとても声を重視する性分で、歌舞伎観劇では女形の方々の声も大きな楽しみだったりします。
だけど、
どれほどに素晴らしい女形の女性声も、同じ舞台で寺島さんの声を聴いたら
「やっぱ男の声やな」
と、現実に引き戻されてしまうんです。言ってみれば興ざめしちゃうというか。

加えて寺島さんは女性ゆえに首が細く、のどぼとけがない。
どれほどに美しい女形でも、かなりキーの高い声を出す女形でも、やはり首は太いんです。寺島さんの女性ゆえの首の細さがまた、悪目立ちしていて興ざめになってしまいました。

寺島さんが出演するのはトータルでほんの15分ほどだったんですよね。

ろくに下調べせず歌舞伎座に向かったのでタイムテーブルを見てギョッとしましたよ、寺島さんが出演する「文七元結物語(ぶんしちもっといものがたり)」は昼の部の4時間半(休憩含む)のうち1時間半しかなかったので。
そして寺島さんはトータルで15分ほどしか出ていなかった。それでも前述していた通りの声と首で歌舞伎ワールドをなかなかにぶっ壊していたように思います。

寺島さんの役者としての実力は申し分なく、主演の中村獅童さんとの掛け合いはとても良かったんです。だけど作品がかなり新しい上にギャグっぽい要素もあったので
「女性が出るのなら松竹新喜劇と区別がつかない」
とも思いました。

考えてみれば・・・
宝塚の舞台に本物の男性が立つようなものなんですよね。
10年以上かけて男役を習得したジェンヌさんであれ、リアルな男性が同じ舞台に立てば観客(少なくとも私)は「男役ってやっぱり女やな」と感じるでしょう。
宝塚ファンで、宝塚には女性だけで頑張って欲しいと思っているくせに、歌舞伎には女性も登板して良いと思っていた私ってご都合主義も甚だしいですね。反省しています。

こんな事を言ってもしょーもないんですが、寺島さんが男性なら素晴らしい歌舞伎役者になっていたでしょう。
寺島さんは超大物歌舞伎役者を父に持つ大の歌舞伎好きでありながら、女性ゆえに歌舞伎役者になれず随分と悔しかったそうですね。
私もとても残念です。菊五郎さんの芸風を継いでいるのは菊之助さんではなく寺島さんだと思いますので。
だいぶ前に観た、寺島さんが逃亡犯役を演じたドラマはとても印象的でした。実在した逃亡殺人犯になりきっており、逃亡資金を得るために大阪の最底辺のばいしゅん街に出入りするシーンまであったんです。
この度の歌舞伎座でも寺島さんは「美しい」や「皆が憧れる」といったキャラから遠く離れた、最初から最後までボロッボロの衣装での貧乏妻を演じていました。夫役の獅童さんは腕の良い職人だけど博打好きがたたってド貧乏、な設定で。
寺島さんがこういった役を引き受けるのは菊五郎さんの芸風DNAなのだと私は思っています。もともと獅童さんの役は菊五郎さんの十八番のひとつだったらしいし、もし寺島さんが男性で歌舞伎役者になっていたらなら喜んで獅童さんの役を演じていたでしょう。
しかし寺島さんは女性なんですよね。もう自らが歌舞伎座公演に登板しようとはせず、息子さんのフォローに徹する方が良いように私は思いました。

最初で最後の記念として、弟の菊之助さんが貧乏夫役を引き受けてくれても良かったのにね。
だけどおそらく菊之助さんは貧乏人やガラが悪い役はやらないんでしょう。
来月の歌舞伎座公演のポスターを観た時はまず夜の部に注目し「(忠臣蔵外伝の)松浦の太鼓を(12月じゃなく)11月にやるんや」と思ったんですが、その後に昼の部の菊之助さん主演の公演について調べたら

右画像は https://www.kabuki-bito.jp/news/8526 よりお借りしました

これだもんなぁ・・・
菊之助さんは「美しい」し「皆が憧れる」カッコ良い役しかやらない、という私の推測をさらに強固にしました。

さて、寺島さん及び尾上親子についてはこれくらいにして、他の感想もサラッと述べてみましょうか。

昼の部のメインは「天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)」で、原作が鶴屋南北だしポスターが

こんなんだしでかーなり期待していたんですよね。ですがさしてイミフでもキモグロでも、スペクタクルでもありませんでした。
音羽屋プロデュースだからかな?宝塚での組カラー、組ごとの特色のようなものが歌舞伎の屋号ごとにもあり、宝塚の組よりもヒエラルキーがキツそう。音羽屋は成田屋に次ぐ名家だそうですから上品でありたいのかも。同じ作品でもチャレンジャーな澤瀉屋ならもっと激しい演出を採用した気がします。

今回最もお得に感じたのは「マチソワのメリット」でした。
もともとの予定では昼の部と夜の部のあいだの1時間を、読者さんに教えていただいた文明堂カフェ東銀座店ですごすつもりで

場所確認を済ませていました。だけど昼の部が終わっても数名、ロビーの椅子にドカッと座ってお弁当やおやつを食べている人がいたんですよね。
たとえマチソワするにしても一旦は外に出なくちゃいけないと思っていた私ですがスタッフさんに確認すると、夜の部のチケットを持っているならロビーに滞在していても良いとの事でした。なのでその場で私はスタッフさんに夜の部のチケットを見せて、そのまま歌舞伎のロビーに居座る事にしたんです。

歌舞伎座には立派な日本画がふんだんに飾られているし(日本画をいくつか紹介した記事はこちら)、ロビーの椅子の座り心地もなかなかです。こんな素敵な場所で超ゆったりすごせる、マチソワ観客だけの特権を満喫しました。複数のスタッフさんから「夜の部のチケットをお持ちですか?」と質問されたのはまぁ、よしとしましょう。着古したトレーナーにジーンズ、リュックにウエストポーチ姿な私ですから歌舞伎をマチソワするようなおばちゃんには見えなくて当然です。

文明堂カフェに行くつもりだったので食べ物を持参しておらず、歌舞伎座内で

めでたい焼、を買ってみました。

サイズや重さは普通のたい焼きよりやや大きめで重めで、

お餅も入っていましたが、ひとつ350円は高いなぁ。ま、歌舞伎座内で売っているにしてはお手頃でしたし出来立てではなかったけれど温かかったから良い記念にはなりました。

めでたい焼でほどよくお腹を満たして迎えた夜の部は
「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」
「菊」
「水戸黄門」
の3本立てで、双蝶々~、はもともとの長いストーリーのごく一部のシーンだけだそうでイヤホンガイドの説明を必死で聴いても良さがわからなかったです。
舞踊の「菊」は普通に美しかった。
そして「水戸黄門」はテレビドラマでお約束のシーン(この紋所が目に入らぬか、のセリフ)こそなかったものの、内容はテレビドラマと同じようなわかりやすい勧善懲悪でした。
男性が女性に扮して詐欺をはたらくシーンがあってまんま「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」のパクりなんですよね。宝塚だと通常営業の作品にトートっぽい男役が出てきたりするでしょう?あんな感じ。弁天~、はとても有名な作品ですからオリジナルも観てみたくなりました。

なんかね、マチソワともとりたてて良いってわけでもなかったんです、今月の歌舞伎座公演は。だけどクセになりますね。大劇場公演をとりあえず全組観劇しているように、歌舞伎座公演にしてもとりあえずひと通り観てしまいたくなります。
次は12月に(夫の単身赴任先である)埼玉に来る予定です。東京宝塚劇場での宙組公演に当選しましたから。この時に歌舞伎座にも行きたいです。

ここでシメれば良いかもしれませんが、余談です・・・
帰りの東京メトロ日比谷線で、

こんな吊り下げ広告を目にしました。

おそらく小学校すら通わせてもらえず、読み書きが出来ないまま家事や結婚を強いられている女の子達の事を述べているのでしょう。
だけどジェンヌさん達にも似たようなところはあるように私は思いました。読み書き出来ない人はいないけれど、音楽学校に入るためのレッスンに必死で学校の勉強がおろそかになっている人はいるかもしれません。しかも合格したら中卒や高校中退で「宝塚だけ」の世界に入るんです。
宙組でこの上なく悲しい出来事が起こってしまったのはジェンヌさん達が「学ぶ機会がなければ わからない」の状態に置かれているからじゃないかと。
あと歌舞伎の家柄ランクほどではなくとも、一番遅くに出来た宙組は何かと不利なのかもしれないとも思いました。

それでも私は宙組公演が再開されるなら迷わず観に行きます。

コメント

  1. めい より:

    歌舞伎には興味がなくなりましたが、男だけの中に女優さんが!ということで、どんなもんかと思ってました。やはり違和感があるんですね。客入りの良くない歌舞伎、何でもやってやろうということでしょうか。努力してますね。

    寺島さんで残念なのは、美人のお母さん(藤純子さん)に全然似ていないことです。お芝居はとっても上手な方ですが。

    昔、月組に居た汐風幸さんもお父さん(仁左衛門さん)に全然似てませんでした。せめて長身なところだけでも似れば良かったのに。汐風さんもお芝居の上手な人で「銀ちゃんの恋」のヤスは、歴代1番だと思います。バウホールの初日に行ったとき、私の真後ろに小林公平さんが座ってました。公演中は良く笑って楽しそうで、ほんとに宝塚が好きな人なんだなぁと思いました。

    昼公演と夜公演の間、劇場に居られるというのは良いですね。宝塚や他の演劇では無いように思います。江戸時代の観劇は、女中を連れて途中着替えたり食べたりして1日仕事だったらしいので、その名残でしょうか。

    宙組は再開してチケットが入手できれば、私も行くつもりです。自分の目でみなければ何もわかりません。
    劇団が裁判所に記事掲載禁止仮処分命令の申立てをした様子がないところから、文春記事にはかなりの部分、事実が含まれていると思ってます。でも、そう思わない人達を、お花畑扱いで馬鹿にしたような言い方は、私はしたくないですね。
    名指しされた生徒さん達を、信じたい人達は信じていればよいと思います。そういう人達が支えてきたことも、今の大入り宝塚歌劇がある一因じゃないでしょうか。

    • 関西の、たー 関西の、たー より:

      めいさんは歌舞伎ヘの興味がなくなったんですね。ビジュアル重視だと若かりし頃のにざ様のようなスーパースターは今の歌舞伎にはいないかもしれません。
      はい、男性ばかりの中にひとりの女性で、寺島さんはかなり浮いていました。私がグダグダ書いた事は「違和感」のひと言で済みましたね。

      客入りはまぁまぁでしたよ。私がマチソワした時は昼は団体がいて8割、夜は6割くらいかな。夜は三等席はけっこうびっしりだったのに一等席にゆとりがありました。歌舞伎に限った事じゃないですが松竹の興行ってチケットが謎めいています。歌舞伎座公演も「貸切料金」や「招待券」な一等席がけっこうフリマアプリなどに出されているんですよね。まともに買うとバカ高いのに。
      歌舞伎座は維持費が大変でしょうね。かといって男女ミックスになれば他劇団との差別化が難しくなり収益アップには繋がらないような気がします。

      寺島さんはテレビドラマで「すごい人やな」と思ったんですが舞台でも映えていましたね。数秒ほど獅童さんのセリフが飛んだんですが寺島さんがナイスフォローしていましたし。しかしながら彼女のよく通る声があまりに女性なので歌舞伎を楽しんでいる気持ちをぶっ壊していたのも私にとっての事実です。

      私は汐風さんは生で拝んでいないんですが汐風さんのお兄さんの孝太郎(たかたろう)さんは何度か拝んでいまして、寺島さん出演作でも遊郭のボス役でした。
      ホンマ、顔がちっともにざ様に似ていませんね。にざ様の顔DNAはどなたにも受け継がれなかった。孝太郎さんの息子な千之助さんはかなり美形ですが母親似だし。とはいえ芝居心DNAは遺伝しているんですね、汐風さんのヤスは最高だそうですし、孝太郎さんもバッチリです。
      小林公平さんはイチゾーの孫娘さんの旦那さんなんですね。そして息子さんの公一さんが現在の宝塚音楽学校校長なんですか~、今いろいろ大変でしょうね。

      はい、昼公演と夜公演の間を歌舞伎座ですごせるのは助かります。
      誰でもくつろげる大劇場と異なりチケットを持っている人だけなのでホンマにゆったりしていました。そっか~、昔はお着換えしている観客もいたんですよね。山崎豊子さんの「ぼんち」にそんなシーンがありました。桟敷席って他の観客に経済力をアピールする場でもあったんですね。しかも船で歌舞伎座に向かっていましたし。

      宙組が再開したら出来れば大劇場でも拝みたいんですがチケット入手出来ないでしょうね。
      はい、自分の目で見て、自分で判断したら良いんです。
      お花畑についてはヤフーニュースでしょーもない記事が出ていました。下品極まりないタイトルで中身はからっぽ、引用というテイではありますが引用元が不明だし。でもってこのニュースのタイトルをまんま利用したブログ記事もありました。私もブロガーですから何としてもビュー数を上げたい気持ちはわからないでもないですが、私自身は控えめなタイトルの記事でも読んでもらえるブロガーを目指します。

      そう、超熱心で、時に冷静な判断が出来ないファンがいるからこそ宝塚の大入りが続いているんですよね。
      我が子をとことん信じる親みたいなものです。
      劇団はこういったファンの気持ちを利用しファンにタダ働きで私設ファンクラブ運営をさせています。その事を自慢げに著書にした元プロデューサーもいます。
      ホンマ、なかなかに闇っている組織ですよ。それでも私は宝塚ファンであり続けるつもりです。

      いつもありがとうございます。
      今後もどうぞよろしくお願いいたします。

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